1. HyperRAM™とは?
HyperRAM™を知る前に、HyperBus™について理解する必要があります。HyperBus™テクノロジーは2014年サイプレス社によって最初に発表され、同社は「HyperBus™インターフェースは、パラレルおよびシリアルインターフェイスメモリのレガシー機能を利用しながら、システムパフォーマンスを向上させ、設計を容易に、そしてシステムコスト削減を実現する」とコメントしています。HyperRAM™は、HyperBus™インターフェースをサポートする新しい技術ソリューションです。第一世代は最大333Mバイト/秒のスループットを提供し、第二世代のHyperRAM™2.0は最大400Mバイト/秒の高速化を可能にしました。
2. ウィンボンドにおけるHyperRAM™の現状は?
ウィンボンド・エレクトロニクスも、2015年にHyperRAM™を最初に発表したサイプレス社との連携を行い、本製品の市場に参入することを決定しました。ウィンボンド・エレクトロニクスではすでに32Mビット / 64Mビット / 128Mビットの容量にてHyperRAM™を販売しており、256Mビット / 512Mビットの製品も開発中です。 これは、ウィンボンド・エレクトロニクスが、多様なアプリケーションのニーズに対応するため製品ポートフォリオをさらに拡大し、より完全なエコシステム構築に役立つといえます。 現在、車載グレードの24BGA(6x8mm²)、コンシューマーウェアラブル市場向けの49BGA(4x4 mm²)およびWLCSP(ウェーハレベルチップスケールパッケージ)、そしてKGD(Known Good Die)にて提供可能です。
3.HyperRAM™エコシステムの現状は?
現在、サイプレス社の他に、NXP、ルネサス、ST、TIなどの主要なMCU企業が、HyperBus™インターフェースをサポートするMCUを提供しており、それらの新製品は今後もこのインターフェースのサポートを続けます。 一方、制御インターフェースの開発プラットフォームも準備ができています。 ケイデンス、シノプシス、およびモビベイルも、HyperBus™メモリ制御IPの提供を開始しており、ICベンダーの設計サイクルの短縮が可能です。 その結果、他のOctal RAMと比較してみても、HyperRAM™は最も成熟したアプリケーション環境を備えています。 また、HyperRAM™はJEDEC規格JESD251 プロファイル2.0.に準拠しています。さらにウィンボンドがHyperRAM™陣営に参加したことにより、サイプレスとISSIに続き市場で3番目のサプライヤとなり、顧客により多くの選択肢を提供できるようになります。
4.HyperRAM™のメリットとは?
ウィンボンド・エレクトロニクスのDRAMマーケット・テクノロジーマネージャーであるHans Liao氏は「HyperRAM™の主要機能である、少ピンカウント、低消費電力、シンプルなアプリケーションデザインの3つの機能は、エンドデバイスパフォーマンスの大幅改善につながります。」と説明しています。
図1:HyperRAM™のメリット(出典:ウィンボンド・エレクトロニクス)
ウィンボンドの64Mビット HyperRAM™を例にとると、スタンバイの消費電力は90uW@1.8Vおよび110uW@3Vなのに対し、同容量のSDRAMの消費電力は約2000uW@3.3Vです。 さらに、HyperRAM™の消費電力はハイブリッドスリープモード(*1)で45uW@1.8Vおよび55uW@3Vしかありません。これはSDRAMのスタンバイモードとは大きく異なります。
図2:64MビットHyperRAM™、Low Power SDRAM、pSRAM、SDRAMにおけるスダンバイモードおよびハイブリットスリープモード時の消費電力比較 (出典:ウィンボンド・エレクトロニクス)
図3:64MビットHyperRAM™、Low Power SDRAM、pSRAM、SDRAMにおける動作モード時の消費電力比較 (出典:ウィンボンド・エレクトロニクス)
例えLow power SDRAMを採用したとしてもフォームファクターはHyperRAM™よりも大きくなり、より大きなPCB面積を必要とするため、これは理想的なソリューションとは言えません。
さらに、HyperRAM™の信号ピンは13本しかないため、PCBレイアウト設計を大幅に簡素化できます。 また、最終製品を設計する際に、より多くのMCUのピンで他の機能を実現、あるいはより少ないピンでMCUを使用することにより費用対効果を高めることが可能になります。
制御インターフェースの簡素化は、HyperRAM™のもう1つの特長です。 pSRAMアーキテクチャに基づいたHyperRAM™は、セルフリフレッシュ機能(*2)があり、自動的にスタンバイモードに戻ることができます。 したがって、システム側のメモリ仕様が簡易化され、ファームウェアとドライバーの開発も簡素化されます。
5. HyperRAM™は他のDRAM製品と比較しどのような位置づけか?
他のDRAM製品と比べ、HyperRAM™は同じバンド幅で動作しつつ、ピン数が少なく、消費電力が低くなっています。 さらに、新しいインターフェースHyperBus™の選択肢を顧客に提供します。
図4:HyperRAM™と他DRAM製品のピン数および消費電力の比較(出典:ウィンボンド・エレクトロニクス)
6. HyperRAM™はどのようなアプリケーションおよび業界に適しているか?
HyperRAM™は、車載やインダストリアル4.0、スマートホーム、ウェアラブル市場において低消費電力と高MCUコンピューティング処理能力を必要とするアプリケーションに最適です。例として、インスツルメント・クラスターや、HMI産業用制御パネル、スマートホーム機器、音声制御機器、車載コンピュータ、スマートバンドなどが挙げられます。 さらに、低コスト、低消費電力、演算効率などの特性は、IoTのエッジデバイスアプリケーションにも適しています。
図5.HyperRAM™のHMI使用例(出典:ウィンボンド・エレクトロニクス)
また、スマートスピーカーやスマートメーターなどのバッテリー駆動のデバイスの場合、豊富なIoT機能と使いやすいヒューマンインターフェイスに加えて、バッテリー寿命が製品成功の鍵となり、低消費電力がますます重要になります。 長いバッテリー寿命を実現するには、低消費電力MCUを使うことに加え、他の低電力周辺機器コンポーネントも考慮されるべきであり、HyperRAM™はこのために設計されています
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(*1) ハイブリットスリープモード(HSM):
ハイブリッドスリープモードは、ほとんどの内部回路が切り離された状態でメモリのデータ保持が可能な省電力モードの1つです。 これは、バッテリー駆動製品やスタンバイ時間が長い製品用に設計されました。
(*2) セルフリフレッシュ:
DRAMでは、メモリデータの各ビットは、チップ上の小さなコンデンサーの電荷の有無として格納されます。 時間が経つと、メモリセルの電荷がリークします。そのため、リフレッシュを行わないと、格納されたデータは最終的に失われます。 これを防ぐために、外部回路が定期的に各セルを読み取って書き換え、コンデンサーの電荷を元のレベルに戻します。
また、ウィンボンドのデータシートでは、「セルフリフレッシュコマンドを使用すると、システムの他の部分の電源が切れていても、DRAMにデータを保持できます。 セルフリフレッシュモード時のDRAMは外部クロックなしでデータを保持します。」と定義されています。
By Ariel Chen
Business Development Manager eMarket Division, TechDesign
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